全ての人間が生まれながらにして持つ権利、人権。今では至る所で人権侵害、人権尊重といった言葉を聞きます。今学期履修している文化人類学のセミナーでは、人権を一種の思想として捉え、それがどのようにこの世界での主流、共通言語になったかについて議論しています。生まれながらにして持っているということで、その歴史は古そうですが、実は人権が主流になったのは結構最近のことなのです。また、文化人類学と人権思想はもともと相性が悪かったのですが、最近はより多様なアプローチが登場し、文化人類学が貢献できることについても議論が拡大しています。人権思想を批判する声も最近高まっていますが、文化人類学的視点から、人権という考え方の可能性について考えてみたいと思います。
1948年の世界人権宣言が、人権という概念の発端だと言われていますが、その概念が実際に浸透し、使われだしたのは1970-80年代になってからのことです。そこには、アムネスティ・インターナショナル等の機関の運動もありますが、と同時に以前主流だった概念、イデオロギーが崩壊したという歴史的背景の影響も大きいと考えられています。具体的には、西洋の社会契約論的支配体制の失敗、そして社会主義国家ソビエト連邦の崩壊です。どちらも政府が資源を再分配するという、政府と市民のトップダウンの関係の上に成り立つシステムでしたが、そこに綻びが生まれ、新しい正義の枠組みとして注目された概念の一つが人権思想でした。
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