私たちは皆国に属しています。最近も芸能人の脱税が発覚して話題になっていますが、脱税が問題になるのはそれが国民としての義務だから、つまり我々が国に属しているからです。今の世界は国家の集合で成り立っています。日本、アメリカ、イギリスといった国家により、陸地には全て国境が引かれ、国家でない陸地は南極を除いて存在しないように思います。しかし!東南アジアには国に属さない地域、ゾミアと呼ばれる場所があるのです。近現代の国民国家制により、国に属せない難民のような存在も生まれてしまっている訳ですが、一方でゾミアには自ら国に属さないことを選ぶ人々がいるのです(という主張をしている教授がイエールにいます)。国ではない陸地とはどういう意味でしょうか。国に属さないとはどういうことでしょうか。先日の東南アジアのセミナーで議論したことを書いてみたいと思います。
James Scottというイエール大学の教授は、東南アジアは元来高地・山地に住む人と平地に住む人に分かれてきたと主張します。近代的な国家の成立以前から、国家が成立するのは平地であり、常にどの国家にも属さない高地が存在してきました。それがゾミアと呼ばれる地域です。
↓ゾミアを示した地図。東南アジアの広範囲に広がっています。
山に住む種族というと、何となく野蛮で近代化していないというイメージがあるのではないでしょうか。映画でも、よく山の民に助けを求めに行くというようなシーンがありますが、だいたい近代種族との関わりは薄く、暴力的で凶暴で力がすごいけどあまり技術は発展していなく頭も悪いというような描かれ方をしますよね。
↓映画『キングダム』に登場する山民族。高度な技術を持っている設定ですが、見た目や戦い方などは上記と一致しています。しかし、スコット教授はこれは平地で発達した国家が作り出した幻影であり、実際は「山の民」は「近代国家の繁栄から取り残された民族」ではなく、平地と高地の間には昔から人・物・文化の交流があり、両者には密接な関係があるのだと主張します。