2週間の春休みが終わり、また日常が戻って来ました。春休みの後半はニューヨークに行ったりキャンパスに来た日本の高校生たちを案内したりしていました。
さて、今回は春休み中に読んだ一冊の本について書きたいと思います。Islam in the United Statesの課題図書だった『Zeitoun』という、実話を元にした、シリアからの移民でアメリカで暮らすZeitounという人がハリケーン・カトリーナの際に経験したことについて記したノンフィクションです。アメリカではベストセラーで、多数の大学が新入生全員に読ませるような本らしいです。
↓表紙からは想像もつかない話でした。。。
Zeitounはルイジアナ州のニューオリンズに数十年暮らし、イスラム教に改宗した白人の妻と塗装業を営むシリア出身のアメリカ人です。2005年にハリケーンカトリーナが来襲した際、Zeitounは一人家に残ることに決めます。物語はハリケーンが過ぎ去り街の8割が水没した世界の中で彼が経験したことを描いています。
彼はたまたま昔買ったカヌーを持ち合わせていたので、街を巡り、逃げられなくなった人々を助けたり取り残されたペットに餌をあげたりします。その様子だけでも、日本のニュースでよく目にする状況が思い浮かびなんとも言えない気持ちになります。しかし、この時点でまだ物語は半分くらいしか進んでいません。この後、Zeitounは突然逮捕されてしまいます。家にいると武装した警官隊に押入られ、何も告げられずに手錠をかけられ、連行されます。なぜ彼は逮捕されてしまったのか?災害で刑務所や警察署も水没した状況で彼はどうなるのか?無事出所できるのか??後半のストーリーについてはネタバレしたくないので是非Amazonで買って読んでください。
自然災害の多い日本に長年暮らして来た僕にとって、Zeitounで描かれた、アメリカのハリケーンへの対応、反応は信じられないものばかりでした。特に、武装した警官隊がアメリカ全土から治安維持のために集められた、ということには衝撃を受けました。逃げ遅れた人々、支援を待ち劣悪な避難所で暮らす人々がいる中で、救助ではなく治安維持のために、救援道具ではなく銃を持った警官が来たのです。それはニューオリンズがもともと最貧困層の多く暮らす街で、ハリケーンに乗じて犯罪が多発したという背景もあると思います。しかし、それだけがこの現象の原因ではない、というのが本を課した教授の意見でした。
アメリカでは9.11以降、警察の武力化、軍隊化が進められました。警官がより武装すればテロリストを排除しテロを防げるという考えが根底にあり、実際多くの国民によって支援されました。しかしそれは実際にテロへの効果は少なく、罪のない、イスラム教徒でもない貧しい黒人やラテン系の人々への暴力につながっていると教授は言っていました。武力化は普段の生活では見えにくいが、自然災害のような、事件の際に明らかになるのです。
日本の現実を理解できていないだけかもしれませんが、僕にとっては、ハリケーンに乗じて犯罪が多発するというところからして理解できず、アメリカ人は野蛮だという印象をぬぐえません。