早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。ご質問、ご要望、ご連絡は記事へのコメント(非公開設定です)にお願いします。

総統閣下は”正しく”描写されているか

総統閣下シリーズをご存知でしょうか。YouTubeニコニコ動画で量産されている、ヒトラーの映画の1シーンに嘘字幕をつけたMAD動画です。↓例えばこのような。ほとんどの動画がこれと同じシーンを選び、嘘字幕をつけていることが特徴です。
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実はこの類のヒトラー動画は各国各言語で量産されていて、アメリカでも有名なmemeの一つです。日本語版の特徴は、ヒトラーヒトラーの人物像のまま捉えながらも、現代の様々なシチュエーションに当てはめ、さらに元のドイツ語を日本語の空耳としてうまく取り入れていることでしょうか。↓日本語空耳集
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今回ドイツ映画で元ネタの映画『Downfall (邦題:ヒトラー 〜最期の12日間〜)』を扱ったので書きたいと思います。
2004年にドイツで製作されたこの映画は、第二次世界大戦でのドイツの降伏前12日間を、ナチスの地下壕を中心に描く物語です。特徴としては、ドイツ映画では珍しく、ヒトラー自身を主役級にし、彼の人間性や感情も描いていること、ドキュメンタリー風で”知られざるナチスヒトラーの最期”を描いてる感を出していること、最後の日々を描くと同時にそこからナチス全体の歴史を感じ取れるようにしようと意図して作られていること、などが挙げられます。過去のドイツ映画にはなかったこのような特徴のおかげか、この映画は商業的には世界的に大きな成功を収めましたが、その一方で批判に晒されることにもなりました。ヒトラーを主役級で商業映画に出すことは倫理的に問題ではないのか?ナチスの人々の人間性にフォーカスすることは彼らのしたことの罪の重さを軽視することにつながらないのか?この映画を”真実を語るもの”と売り出すのはどうなのか?この映画の目的は何なのか?過去と向き合うという点においてドイツ国民に好影響を及ぼすのか?といった議論が噴出しました。

さて、例のよく使われるシーンですが、↓元の字幕はこのような感じになります。ベルリン防衛がもはや不可能であると知ったヒトラーが激昂し、最後は涙を流して会議室を後にします。
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僕はfilm responseで、なぜこのシーンがネタにされるのかということについて撮影技術の観点から書きました。カメラのアングルがヒトラーを見下ろし他の立っている副官たちを見上げる構図になっていること、誰かの背後からヒトラーを取ることで画面を狭くし、またフレームを小刻みに揺らすことで一人暴れるヒトラーの動きを強調していること、これらがヒトラーを弱く不安定で子供のような存在に見せています。これは普通のヒトラーのカリスマ性があり怖く恐ろしいというイメージからはかけ離れており、だからこそヒトラーを笑いの対象にできる数少ない機会なのではないかと考えました。

授業では、このシーンのヒトラーはリアクションがオーバーすぎて史実を描くというコンセプトと合致していないのではないか?このシーンで観客はヒトラーに同情するのか?といった議題があがり、面白かったです。個人的には、このシーンはヒトラーたちナチスの人々が真剣に戦争について話し合っており、そこにはそれまでに注がれた何千万というドイツ或いは敵国の犠牲者の存在があることを知りながらも、ネタ動画を見て、また本編を見ていてもそれを思い出して笑ってしまう自分や、面白い!という多数のコメントを残している人々がいることに何か納得できないものを感じます。

次のサンクスギビングブレーク明けの授業では僕がセミナーのディスカッションリーダーを勤めるので頑張りたいです。では!