早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。

"War on Terror"の終焉

イラクアフガニスタンについてのセミナーでは、両国の簡単な歴史とアメリカの侵略についてというパート1が終わり、より具体的な問題を扱う時期に入りました。その第一弾がテロリストグループ、ISとタリバンについてでした。このセミナーでは、学生全員15分のプレゼンテーションを学期中どこかで一度行うことになっていて、僕は今週を選びISについて発表しました。通常だと課題のリーディング(150ページ程)を読むだけで良いのですが、プレゼンの際はさらに自習して、課題図書に載ってないことも取り入れる必要があります。図書館でIS関連の本を借りて来たらルームメートに違う意味で心配されましたが、色々と知らなかったことも多かったので、プレゼンの内容についてご紹介したいと思います。

僕のポイントを一言で言うと、War on Terrorと言う考えはやめよう!です。War on Terrorは、アメリカで9.11以後よく使われるフレーズで、「テロとの戦い」を意味します。ここで問題なのは、戦うことではなく、「テロ」と言う言葉で、テロ組織全てを一括りにしていることです。ISやタリバンについて詳しく調べると、ISIS (イラクとシリアのIS)、アフガニスタンのIS、タリバンでその目的や戦略、対処法が全く違うということがわかります。本来様々な違いがあるのに、似たようなテロ行為を行うという特徴だけで一括りにしてしまうと、効果的な対処法を見失うだけでなく、不必要にテロリストグループ同士が結びつきやすくなるきっかけにもなってしまいます。

僕は様々な違いの中でも、特に各組織の戦略と対処法の違いについて注目しました。ISISは、宗派主義を強調することで民衆の心を掴み、勢力を拡大しました。2003年のアメリカとの戦争で政権の座を引き摺り下ろされたサダム・フセインに代わり、2005年の選挙で民主主義的手続きを経て首相になったマリキでしたが、国民の望んでいたような政策を実現することはできませんでした。その後、2010年の選挙でマリキは破れますが、アメリカからの支持もあり権力をさらに拡大します。マリキはイラクの多数派シーア派で、政権や軍でシーア派を優遇する措置を取り、少数派であるスンニ派の不満、政府や軍に対する不信感は高まりました。そのスンニ派の感情を利用したのがISISでした。「スンニ派唯一の守護者」を掲げたISISに、政府打倒の目的から加入するスンニ派は多くいました。この宗派間の確執を利用した戦略は他にも利点がありました。大部分がシーア派で構成された政府軍は、ISISがスンニ派の地域に攻め入った際、スンニ派市民も反旗を翻すことを恐れ、また他宗派の人間のために戦う士気もなく、ほとんど戦わずに逃げました。

欧米で繰り広げられるテロ行為のイメージが強いISISですが、元々はこのようにイラク(とシリア)のローカルな状況を利用し、このローカルなエリアで勢力を拡大しようとした組織だったのです。シリアとイラクの間に引かれた、植民地時代西洋が引いた国境を無くし、新たなイスラム国家を建設することが一番の目的だったISISでしたが、2015年頃から力を失い始め、欧米のような「遠い敵」を相手にするトランスナショナルな組織戦略に変更した、ということです。

タリバンは、アフガニスタンで長らく力を誇っている組織です。タリバンの一番の目的は、アフガニスタン政府を打倒し国を支配することです。この点では、この組織もかなりローカルと言えます。そしてタリバンが目的達成のために取った戦略は、政府より良い支配者として民衆の支持を得る、というものでした。アフガニスタンの政権はアメリカの侵攻以前も以後もかなり腐敗しており、民衆の基本的な要求も満たせないでいました。タリバンは、例えば経済面では、アヘンの生産を各地で進め、もちろん組織の財源としてもですが、地元農民の収入も約束しました。また、裁判のようなものを政府より安く速やかに行うなど、国民のニーズにある程度沿った行動をとり、支持を得ました。

ISは2015年頃アフガニスタンにも進出します。目的は領土の拡大なのか、支持者や兵士、資源の獲得なのかは不明ですが、なんにせよ状況はイラクとはかなり違いました。宗派間の争いはなく、さらにタリバンというライバル組織(どちらもリーダーが真のカリフと主張)もいます。ここでISの取った戦略は、とにかく力で支配する、というものでした。農民のアヘン栽培は許さず、ISの兵士になる以外の収入源を無くしたり、タリバン支配地域を直接戦闘で奪ったりしました。また、タリバン以上に冷酷な思想によって、タリバン内部の過激主義者をリクルートし、タリバンの統一性を崩すという狙いもありました。

以上見てきたように、普段のニュースから、どの組織も同様に外国、特に欧米を狙うテロリストたちのグループというイメージがありますが、実際にはそうではなく、それぞれよりローカルな目的のもと異なる戦略で行動しているということがわかります。ということは、当然これらの組織に対峙するにも組織によって異なる戦略が必要になります。例えば、イラクからのISIS根絶は、シーア派の政権とクルド系地域が手を結び、アメリカと協力して攻撃を行ったことが大きいです。アフガニスタンでは、タリバンとISを同一視するのではなく、両者が手を組まないように画策することが重要になってきます。もちろん、実際にはそんなに単純な話ではなく、ISやタリバンの戦略に加え、中東の他の国々の思惑やアメリカの思惑も関係してきます。

日本にはあまり関係のない話かもしれませんが、アメリカ視点では中東は石油の輸入源として、また地政学的に重要な地域として、中東への関与は今後も続けざるを得ず、正しい選択をする必要を迫られています。