早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。

アメリカの大学、教授のダイバーシティ

前回の投稿から一ヶ月以上経ってしまいました。Yaleでは春学期も残り2週間ほど、それが終われば3ヶ月の夏休みとなります。そんな中、今話題となっていることの一つが、学部間の格差や教授のダイバーシティについての問題です。3月の終わり頃、僕の専攻、Ethnicity, Race, and Migration (ER&M)に属する教授13人がプログラムからの離脱を発表しました
(Thirteen professors withdraw from ER&M; majors in limbo)
。簡単に言うと、大学からこのプログラムへの資金や力が不足していることに対する抗議としての行動です。

元々、ER&Mは専攻(major)としては認められていますが、他の多くの専攻のような学部(department)ではなく、プログラム(program)という位置付けです。この違いが何を意味するかというと、一つ目に教授はER&Mのみに属することはできず、他の学部に属しながらER&Mにも携わることしかできません。また、ER&M自体に誰を雇い誰を解雇するかを決める権限はなく、大学運営側に従うしかありません。一つ目の制限の結果、教授はER&Mの分野に集中して研究したり、この専攻の学生に集中して指導することができず、年々増えるER&M専攻の学生を十分にサポートすることができなくなってきました。また、多くの教授がAmerican Studies学部との掛け持ちのため、ER&Mの授業の大半がアメリカにフォーカスした内容にならざるを得ません。二つ目の制限は、知識と権力が密接に繋がっていることを考えると大きな問題です。学生たちが何を学べるかが、この分野の専門の教授ではなく大半が白人の運営人によって決められてしまうというのは、特にそういった人種や社会不平等の問題を扱うこの分野の意味を剥奪してしまいます。

イエールは教授職のダイバーシティに5000万ドルを投入すると発表し、ER&Mにも更なるリソースを投資すると約束してきたにも関わらず、関係する教授や学生の要望がほとんど成し遂げられてこなかったことから、今回の13人の教授の行動に繋がりました。ここでも、この5千万ドルのプロジェクトにER&Mに携わる教授が誰1人関わっていない、国際関係学のプログラムには多大な資金が投入され学部に昇格することが決定した、など多くの問題が明るみに出てきました。

単純に、ER&Mという分野の重要度が他の分野に比べて低いだけじゃないの?そう思うかもしれませんが、この分野はアメリカでも日本でもどこでも非常に重要だと思います。ER&Mは社会学文化人類学、経済学、政治学など様々な分野を組み合わせ、包括的に問題を分析し、さらにその解決方法まで考える学問です。世の中には多くの社会問題があり、それを解決するためには様々な面から問題を分析し、表象の出来事だけではなく複雑に絡み合う社会システム、組織的影響を読み解く必要があります。そして、アメリカでは全ての問題に人種、移民が関わっており、その包括的理解は必要不可欠です。

単一民族国家の日本では関係ないと思うかもしれませんが、日本の歴史においても人種や移民は大変需要でした。アジア圏の植民地化の理由、沖縄やアイヌ民族の併合、日系人移民への優遇。今でも、「日本人の血」に見られるように、人種という概念は日本社会、意識を形成する重要な条件です。さらに、今後移民、外国人労働者が増えることを考えれば、ER&Mの重要性はさらに増加するでしょう。

大学側は、辞めると言った教授たちに対し、「でもこの数年で2人新しい教授を招待して、このプログラムのこともダイバーシティのこともちゃんと考えている」と反論しています。この2人の教授が、ER&Mに所属しませんかと言われ承諾したのに来てみると他の学部と掛け持ちだったというのも問題ですが、同時に数でダイバーシティを捉えているのも問題だと思います。特に社会系の学問では、研究者一人一人の価値観が研究に影響を及ぼし、その価値観にこそ意味があります。白人のみが黒人について研究するのも、ゲイだけがゲイについて研究できるとするのも間違っており、黒人が黒人を研究することにより生まれる知見もあり、異性愛者にしか分析できない同性愛に関する事象もあるのです。

ということで、ER&Mについて色々書いてきましたが、僕がこの専攻を選んだのは、この分野の重要性に感化されてというよりは、単純にethnicity, race, and migrationというテーマが面白いと思ったからでした。イエールに来て、自分の思う「日本人」という概念や常識がいかに脆く、社会に影響を受けているかを痛感する機会が幾度とあり、それを一番直接的に学べる分野として選んだ専攻です。教授たちが他の学部と掛け持ちしているというのは、逆にいうと色々な分野を同時に学べるということでもあり、僕にとっては良かった部分も多々あります。教授たちは来年までは今まで通り授業をし学生をサポートすると言っているので、僕に直接的な影響はありませんが、卒業後もこの専攻が続いてくれることを願っています。