早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。ご質問、ご要望、ご連絡は記事へのコメント(非公開設定です)にお願いします。

ぼくらが旅に出る理由 カンボジア技能実習生編

前回の記事で紹介したように、インターンシップの一環としてカンボジアにて、技能実習生として日本に行くことが決まった人たちに出国前の日本語トレーニングを提供している送り出し機関及び移民当事者にインタビューして来ました。インタビューの内容をそのままお伝えすることはできませんが、そもそも技能実習とは何なのかというところから書いてみたいと思います。

↓授業を受けていた学生の机の上。
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技能実習とは、日本の技術を発展途上国からの実習生に指導しそれを本国に持ち帰ってもらうことでアジア圏に貢献しようという趣旨のプログラムです。ベトナム、中国等からのからの受け入れが多いですが、2007年からカンボジアからの受け入れも開始されました。数千人に上る失踪者、受け入れ企業の70%超が何らかの労働法違反を犯している等ネガティブな報道や統計でも有名ですね。

制度上は、そのような問題のある企業や送り出し機関は実習生を受け入れる/送り出す権利を剥奪されます。実習生を送り出す国の送り出し機関・企業は本国の認可を受けている必要があり、また日本側の受け入れ企業または複数の企業への斡旋と監査を担う監理団体とすでに契約している必要があります。送り出し機関が実習生に保証金を貸すことは禁じられているので、そういった不正をする送り出し機関は本来はないはずです。また、日本の受け入れ企業は監理団体からの審査が入り、また監理団体も国からの監査・指導が入ります。従って、最低賃金未満の給料、時間外労働に対する給料未払い、パスポートの取り上げ、労災保険への未加入など法的に定められた義務を果たさない企業・団体の不正はすぐに発見され実習生の受け入れ資格を失うこととなるはずです。

カンボジアの場合、送り出し機関や政府が各村などで技能実習の機会を宣伝し(送り出し機関の宣伝も政府の認可が必要)、興味のある人は応募、実習生になるための試験や面接に合格したら日本語のトレーニングを現地で受け、日本にやって来ます。(ミャンマーでは逆で日本語などのトレーニングを積んだ後実習生になれるかが決まる。)トレーニングには国指定のプログラムのようなものはありませんが、内容は政府に認可を受ける必要があります。カンボジアでは送り出し機関の有志が団体を作り統一したプログラムを作成、使用しているとのことです。日本ではまず1-2ヶ月さらなるトレーニング(日本語、生活、安全衛生、法律、交通、仕事に必要な技術など)を受け、受け入れ企業で働くこととなります。

送り出し機関や受け入れ企業が不正を働いたり実習生をきちんと扱わなかったりするかどうかは、結局のところ機関や企業によるとのことです。例えば、実習生としては、送り出し機関が保証金を受け取ってはならないという法律や、外国人でも労災が降りるという事実を知らなければ騙されていること・隠されていることに気づきません。機関・企業としては、制度や法律を完全に理解し全てを実習生に教えサポートするかどうかは法律の範囲内であってもある程度融通が利きます。

ただ、様々な問題の発生を受け、現在では技能実習生は出発前にカンボジア政府の半日のガイダンスを受けることが義務付けられており、そのガイダンスは特に実習生の権利についてもきちんと説明するとのことです。また、在日カンボジア大使館は実習生が皆入れるFacebookグループを作っており、そこでも色々な権利に関する情報を提供したりメッセンジャーを通じて実習生が相談したりできるようにしているとのことです。日本政府側の相談機関では多言語による電話相談を受けつけているところはあってもSNSはほとんどないので、このような相談方法は(実際どの程度問題解決につながるのかはわかりませんが)頼りになるのではと思います。

さて、技能実習生は実際どのようなトレーニングをどのような感じで受けているのでしょうか。僕のインタビューした送り出し機関は、3ヶ月の日本語教育(平日毎日8時から5時+補修)を実施していました。先生は日本語を話せるカンボジア人で、学生は1クラス15人ほど、20代中盤から後半の人が多く男女も半々くらい、授業は基本的に日本語にて和気藹々と行われていました。日本語は生活や職場での実用面を重視しており、僕が覗いたクラスは色や果物の名前、〇〇より△△の方が好きという表現方法についてやっていました。毎日1時間は日本の文化や生活習慣についての学習に当てられるとのことで、ゴミの分別などについても学んだそうです。3ヶ月という期間は、最低限の日本語を学ぶのには意外と十分ですが、文化や習慣を学ぶには全然足りないとのことでした。前回の記事でも触れたように、今までの常識とは全く異なるルールを学び納得するにはやはり時間がかかるものです。

一つ印象に残ったのは、日本語の授業の中で度々日本にしかない、まだ見たことのないものが登場することです。果物であればみかんやリンゴ、飲み物のココア、寒い気候、ラーメンなど。そういったものが登場する時、先生は「ぜひ日本で体験してみてくださいね。こんな味がするらしいですよ。ラーメン食べ過ぎて病気にならないように。」など、想像力を掻き立て日本に行くのが楽しみになるようなことを言います。学生たちの目も輝きます。

技能実習生の多くは技術を学ぶためではなく、単純にお金を稼ぎたいから来ている。そんな話もよく聞きます。確かにそうなのかもしれません。しかし、日本に数ヶ月後には行くことが決まり、日本語を勉強し頑張っている人たちの、未知なる世界に旅立つ前のワクワク感やドキドキ感、期待に胸が膨らむ気持ちというのは本当に存在するものだと今回強く感じました。日本企業の実態を知らないから言えることかもしれませんが、彼らが日本に来てから「あのトレーニングを受けていた頃は良かった。現実を知らない方が良かった。」等と思うことにならないと良い、その気持ちが強く残りました。一方で、「劣悪な環境」「厳しい労働条件」などの定義も日本とカンボジアでは大きく異なるでしょう。単純に日本基準で労働搾取だと批判しても、それが必ずしもカンボジア技能実習生の苦しんでいること、悩んでいることとは一致しないかもしれません。当事者が何を考え何を経験しているのか、それを明らかにするのが一番なのかもしれません。