早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。ご質問、ご要望、ご連絡は記事へのコメント(非公開設定です)にお願いします。

イエール大学心理学教授がオススメするコロナウイルスに立ち向かう4つの方法

春休みが明け、オンラインでの授業が始まりました。社会心理学(Social psychology)の最初の授業は、コロナウイルスについて。社会心理学的見地から、コロナウイルスに関連する人々の行動、そしてこれからについての分析をしていました。今までに授業で習ったことを鑑みた僕の考えも合わせ、4ポイントに分けて紹介したいと思います。

1. 情報は集めろ、しかし集めすぎるな
人には自分の予想、予測が実現するように無意識に行動する習性があります(self-fulfilling prophecy)。ある学校の先生に、ランダムに選ばれた生徒の嘘のIQを教えた上で授業をしてもらったところ、高いIQを持っているとされた(実際のIQではなく)生徒のテストの点数が低いIQを持っているとされた生徒より高かったという有名な実験があります。先生はIQが高い生徒の方が勉強ができるという自身の予想を実現するために行動(高いIQだとされている生徒により指導する等)したのです。

コロナウイルスにおいては、例えば中国人が感染源だと思った人はそういった情報を多く集めようとしますし、トイレットペーパーの買い占めが起こると思った人はそういった情報を拡散し、また買い占めという行動をとります。こういった自分が思ったことが必ずしも正しいわけではないと気づくためには、情報の収集が不可欠です。

一方で、四六時中ネットやテレビのニュースに張り付くことは精神的に逆効果となります。人には長時間かけて考える論理と短時間で決断・結論づける直感の機能が備わっていますが、直感は短時間で決断する故のエラーが存在します。その一つがAvailability heuristicと呼ばれるもので、たくさんある情報の中で目の前にある情報のみをもとに判断を下してしまうという性質です。例えば、5人の被験者に協力して車を押してもらった後に、自分の車を押すという行為への貢献度を問うと、20%より高い数値を答える人が多いという実験結果が出ました。自分の貢献度が他の人より高いと皆思ったということです。これは被験者たちが車を押すときに見えていた、車を押す自分の手という目の前の情報をもとに貢献度を判断した結果です。

コロナウイルスがいかに危険で、いかに被害を及ぼしているかという情報のみで目の前を埋め尽くすと、政府や医療機関が行なっている様々な対策、日常と変わらない生活の部分などを鑑みずに直感で決断しパニック的な行動してしまう危険性が高まります。ちなみに、上記の車を押す実験では、最初に他の被験者たちの貢献度を聞き、その後自身の貢献度を聞くと、自分の貢献度を低くいう人が多くなりました。コロナの情報以外のことも考え情報収集することで、必要以上にコロナの危険性を感じることがなくなるのです。

さらに、人のストレスは伝染します。ストレスを抱えている人と話すこと、さらにはストレスを抱えている人を見るだけでも自分のストレス増加につながるのです。テレビなどでコロナへの恐怖を抱えた人や対策に追われる人などの映像、証言を聞くことは大事ですが、四六時中、聞きすぎるのは良くないのです。

2. 周りが本音ではどう考えているのか、考え、聞け
「自分は今教授/上司が言ったことよくわからなかったけど、周りは皆わかってそうだから質問しないでおこう」そう思って何もしなかった経験、みなさんあると思います。これはpluralistic ignoranceと呼ばれる現象で、周りが考えていることは自分とは違うだろうと勝手に思ってしまうというものです。これは特に社会的なプレッシャーが強いコミュニティにおいてある現象で、頭が良い人たちの集団とされる大学の講義で質問者が出ない、強い人たちの集団とされる警察で精神科にかかる人がいない、などがその例です。

海外はこれだけ都市封鎖になっているのに日本は出歩く人も多くゆるい!と話題になっていますが、家でおとなしくしていない人の中にはこのpluralistic ignoranceに影響されている人もいるかもしれません。自分は本当は家にいたいが同僚or上司or友達or同級生はきっと仕事に来たり会ったり遊んだり飲んだりしたいと思っているだろう、家にいたいと言ったら孤立してしまうだろう、職場で白い目で見られるだろう、そう思って言い出せないという場合もあるのではないでしょうか。批判の的になる「若者」は往往にして「政府や年寄りの言うことを素直に聞かない強さ」「友達付き合いを優先する性格」を求められます。このような社会的プレッシャーによってpluralistic ignoranceが発現しているとすると、それを解消するための方法は、周りに意見を求めることです。直接聞けない場合には、例えばSNSを見て見ましょう。自分と同じような職業、年齢、境遇の人がどのように考えているのかわかります。自分と同じ意見を見つければ、それは自分の意見を表すきっかけになります。

3. 差別・偏見は共闘で乗り切ろう
人はグループを作り差別してしまう生き物です。ある実験で子供の被験者がランダムに二つのグループに振り分けられ、対戦形式のいくつかのゲームをしました。するとすぐに子供達は自分のグループのメンバーに対しては好意的な発言を、相手のグループに対しては中傷的な発言を繰り返すようになりました。他の実験では、「画面に映っている点の数の予想」と言うような本当にどうでもいい条件でグループ分けした被験者についても、自分のグループに好意的に行動・発現し相手のグループに敵意を抱くと言う結果が出ました。つまり、人は自分の属するグループとその他のグループを分け敵視する性質なのです。

コロナウイルスにおいても、感染者と非感染者、接触者とそれ以外、外国人と日本人、若者とそれ以外、一般人と政府、帰国者とそれ以外、富裕層と貧困層、等様々なグループ分けがされています。自分の属するグループを好意的に考え、相手のグループに対し批判的な意見を持ってしまうのは人間として仕方のないことです。

この差別・偏見を打破するのは、「相手のグループと協力して何かをする」と言う行動です。上記の子供達の実験では、その後2つのグループが協力しないとクリアできないゲームを行いました。すると、2つのグループは打ち解けて仲良くなったそうです。コロナウイルスにおいては、誰が悪い、ではなく「皆で協力してコロナという敵に立ち向かっている」という認識を持つことが大切で、そう言った認識を皆が共有すれば差別や偏見、特定の個人やグループへの中傷は軽減できるのではないでしょうか。

4. 離れていても寂しくない。深い人間関係を大切に。
外出自粛やテレワーク、休校などにより、家にいる機会が増え、友人や同僚、家族と過ごす時間が減っている方、また今後都市封鎖のような状況になればそう言った方は増えていくと思います。

ある研究によると、長い時間人の流入出が少ないエリアに住んでおり引っ越しできない人(経済的理由で)においては、深く狭い人間関係を築いている人の幸福度は浅く広い関係を築いている人に比べ高いそうです。自宅に長期間いざるを得ない今の状況は少し違いますが、深い人間関係を大事にすることと高い幸福度には関係がある可能性があります。

また、人間関係は物理的な距離のみに依存しているわけではありません。自分が周りの人間関係の中で感じられる距離、暖かさ(social support)が大事なのです。会えるうちに深い人間関係をさらに深め、会えなくなってもその関係を何らかの形でキープすることが自分の幸せにつながります。