彼が日本に来るのは久しぶりだった。2年前言葉も文化も何もわからない状態で栃木に一年留学した彼の現在は奇跡に近い。5年生レベルの日本語を履修し、今日本の企業に応募しようとしているのだから。長かったような短かったような、そんなことを思いながら彼はボストンに降り立った。ボストンキャリアフォーラム。日本での就職先を得られる唯一と言っても過言ではない就活イベント。会場に足を踏み入れた彼の周りは本当に日本人ばかりだ。皆一様に紺の就活スーツを身に纏い緊張した面持ちを浮かべ会場を彷徨っている。「日本に来た。今までとはまた違う、新しい日本に。」
僕は彼のことが心配だった。日本人である僕にとっても大変なイベントに彼は1人乗り込もうとしている。言語面での問題はないだろう。彼の日本語クラスのチューターとして一学期間会話や面接の練習を見て来た中でそこに不安は感じていない。しかし相手が企業の採用担当と大学生とでは大きく異なる。言語だけでなくマナーや文化の理解も必要となるだろう。ボスキャリというある種異様な空間の中で萎縮してしまわないだろうか?数週間前に「なぜ自分が日本語を学んでいるのかわからない。来学期以降も続けるべきかな?」相談して来た彼の声が頭をよぎる。
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