早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。

社会学的には過去でもない、未来でもない、今を生きることなどできない説を検証

俺は過去でも未来でもなく、今を生きる。あなたは過去に囚われすぎている。大事なのは、今じゃない。漫画やアニメでそんなセリフを聞くこと、ありますよね。かっこいいシーンですが、よく考えてみると、過去にも未来にも縛られず、今を生きるってどう言うことでしょう。そんなこと可能なのでしょうか?そこで今回持ってきた説はこちら。過去でもない、未来でもない、今を生きることなどできない説!
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今回の説の検証にあたり、我々はヒト、社会に一番詳しい社会学者を探すことに。まず浮かび上がったのがアメリカ出身のベッカー (Gary Becker, 1976)。ノーベル経済学賞も受賞していて、合理的選択理論(Rational Choice Theory)を提唱し経済学を人間の様々な決断、行動に応用したことで有名だ。この理論はいたってシンプル。人は誰しもどのような時でも、置かれた状況の制約の中において未来のWelfareを最大化するよう利益とコストを計算し決断・行動すると言うもの。つまり未来に縛られて生きていると言うことだ。Welfareは基本的には経済的利益のことを指すが、コネクションや地位、尊厳といった社会的・文化的利益も含まれている。

例えば、女性の大学進学という決断を考えてみよう。この合理的選択理論では教育も一種の投資と考える。つまり、彼女は教育に費やす費用や時間等のコストと、教育によって将来得られる知識や地位、また仕事へのアクセスといった利益を天秤にかけ、後者が勝れば大学進学を決める。学費が高ければ大学進学をしないかもしれないし、学士取得により将来の安泰が約束されるなら進学を決めるかもしれない。もちろん彼女自身の計算能力や情報へのアクセスにも結果は左右される。しかしポイントは、研究者としてはその女性の置かれた状況さえ理解できれば、コストと利益を数学的に計算することにより彼女が選択するであろう決断を予測できるということだ。

このアプローチの何がすごいのか?一言で言えば、ミクロな決断を分析することでマクロな事象を説明できる点だ。上の例で考えると、女性1人の大学進学という決断がミクロ、賃金の男女差の縮小がマクロな事象となる。賃金の性格差はなぜ縮まっているのか?核家族化、少子化が進み、また女性の社会進出を促進する社会的・政治的潮流の元では、女性にとって教育を受けることは仕事に繋がりやすくなる。つまり、教育へのコストより将来の利益の方が高くなるので、女性は教育への投資を決断する。すると、女性の能力が増加し、自然とそれに見合い給料も高くなる。この個人個人の現象が広範囲で起こるので賃金の性格差縮小というマクロな現象が表れる。

他にも、例えば法律に違反したものに対する懲罰の種類や程度を考える際にも合理的選択理論は役に立つ。法律を犯すかどうかの決断において、犯した際に得られる利益より懲罰によるコストの方が高ければ、人はその法を犯さないという選択をするだろう。実際アメリカではこの理論を用いて計算を行い懲罰を制定しているケースがある。

どうやら人は未来に縛られて生きているようだ。しかしさらに調査を進めると、この理論に異議を唱える学者を発見した。フランスの社会学ブルデュー (Pierre Bourdieu, 1990)だ。彼はまず合理的選択理論は経済資本を特別視しすぎていると批判する。地位や文化等の価値を数字に置き換えて計算することは難しい中、この理論は経済的な条件だけに焦点を当てていると。

さらに、彼は人は未来ではなく過去の経験に縛られていると主張する。彼は問う。あなたは日常生活において全ての決断・動作を未来の利益増加を考え決定しているかと。ある文化人類学者は、妻が台所で料理を作る20分間を観察したところ400以上の動作を記録したという。つまり、人間は無自覚・無意識・非戦略的に行動することも多々あるし、常に何か自分の利益を最大化しようとして生きているわけでもないのだ。

このような現象は合理的選択理論では説明できない。代わりにブルデューが提唱するのは、ハビトゥス(Habitus)という概念だ。これは個人の過去の経験が形成する嗜好のようなもので、このハビトゥスとその時の状況によって人の行動は決定される。例えば台所の例で言えば、彼女が過去に台所で経験した物事がハビトゥスに取り入れられており、そのハビトゥスが現在の彼女の台所で料理するという状況に合うように彼女の動作を作り出している。

どちらにせよ、人は過去や未来に縛られてしまうようだ。ということで検証結果は、仮面ライダーが魅力的なのは人間にはできない「今」を生きているから。