早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。ご質問、ご要望、ご連絡は記事へのコメント(非公開設定です)にお願いします。

帰国できない芸術家

現在Yale University Art Gallery (Yaleにある美術館)では"Artists in Exile"という特別展示が行われています。その中でも一際目立つ展示が、イラン出身のアーティストShirin Neshatによる映像作品の一コマを写真にしたものです。縦横共に1m以上の大きさで、会場の目玉となっています。「中東のジェンダー」のセミナーでこのアーティストについて扱い、final paperでもこの人について書くことにしたので、先日実際に見に行ってきました。
Raptureという1999年の作品からの出展です。
f:id:yukihayasaka:20171130150122j:plain

Neshatはイランで生まれ、大学からアメリカのUC Berkeleyに留学しアートで学位を取り大学院まで行きます。その折イランではイラン革命が発生し、その後イラン=イラク戦争が勃発し彼女は帰れなくなり、ニューヨークでアートスタジオの受付をします。再びイランに帰ったのは1990年のことで、その際にあまりの変わりように衝撃を受け、自分自身で作品を制作することにします。その後、彼女の作品は国際的に高い評価を受けますが、イラン政府からは睨まれる存在となり、危険なためイランにはもう帰ることができなくなりました。彼女は最初写真のアートを作っていましたが、その後映像作品に切り替え、冒頭で紹介したRaptureも初期の映像作品の一つです。この作品は、二つの映像が同時進行し、鑑賞者は二つの画面に挟まれた空間でそれを観るという作りになっていて、片方では黒づくめの女性のみが登場し、もう片方では制服を着た男性たちのみが登場します。このように、彼女の作品は一般的にイラン、中東の女性にフォーカスしていて、フェミニズムや抑圧されたムスリム女性の解放と言った文脈で語られることが多いのですが、そう単純でもないというところが面白いのです。

例えば、こちらは彼女の作品の中でも最も有名なものの一つです。実際の大きさは人の身長より大きいくらいだそうです。
ヒジャブをした女性の顔の写真の上から、手書きでペルシア語が書き込まれています。
f:id:yukihayasaka:20171201013428j:plain

一見すると、ヒジャブ着用を強要され自由を抑圧されている中東女性の苦悩を、宗教的意味合いを持ちそうな文字で強調し西洋諸国にアピールしているように思えます。しかしこの文字は、実はフェミニストの詩です。それを理解すれば、西洋からのステレオタイプに反し、実は女性も強く生きているということのアピールとも取れます。

グローバル化した世界の中でアメリカで活躍するイラン人という肩書きを生かした作品。オリエンタリズムコロニアリズムナショナリズムという時代を経た現在のグローバリズムは、芸術という面でも新たな時代を開拓しています。