早坂有生のYALE

2016年にYale(イェール、エール)大学に学部生として入学した日本人、早坂有生のブログです。大学での出来事やアメリカ大学出願のことなどについて書いていきます。ご質問、ご要望、ご連絡は記事へのコメント(非公開設定です)にお願いします。

Microaggression(マイクロアグレッション)とは

今回は最近アメリカの大学、特にIvy LeagueやトップのLiberal Arts Collegesで流行している概念「microaggression」について書きたいと思います。人種のるつぼであり人種差別の歴史の影響が強いアメリカならではの流行だと思いますが、触れてみると日本人にその概念が足りなすぎるという気もしてきます。

Microaggressionとは、unintentional discrimination by way of subtle comments that reveal bias generally ingrained in culture through race and gender stereotypesです(Yale Daily Newsより)。あまり厳密な定義はありませんが、意図なしに言った言葉が言われた相手にとっては差別発言となり、その言った人の隠れた差別意識がわかってしまうというような現象のことを指します。白人や男性が言って黒人やアジア人、留学生、女性がmicroaggressionを感じるケースが多いです。

例えば。僕が当事者となる場合だと、、アメリカの白人と初対面で話していて、「君英語うまいね。」と言われた。数学苦手なんだよねと言ったら「え、アジア人だろ!?」と驚かれた。他の人が当事者だと、、大学のコースの名前が「アメリカとアフリカ」だった。テロに関する授業で教授が「Muslim terrorists」と発言した。どれも悪気、差別的意識はなさそうですが、全部microaggression認定されます。
最初の二つは、僕の外見でアジア人だと判断し、アジア人は英語が下手だろう、数学が得意だろう、という先入観の入った発言です。アメリカとアフリカを並列するのは、アフリカを全体で一つの国と考え、アフリカを構成する国々を無視しているような意識の表れで、アフリカの国の出身や移民にとってmicroaggressionになります。Muslim terroristsではなくterrorists who are Muslimと言わなければなりません。和訳するとどちらも「イスラム教徒のテロリスト」となりそうなりそうですが、言葉のニュアンスで、前者だとムスリム=テロリストのような感覚があるようです。

上記の例は、どれも僕が実際に体験したものではありませんが、Yaleで友人から聞いたり目にしたりしたものです。僕自身も、microaggressionや差別にあてはまるのかは自分ではわからないが、何となく引っかかることを言われたことは結構あります。日本のアニメを一瞬見て、「やっぱ日本はフシギだね」と言ったり、ボカロの話を聞いて「バカなアイディアだな」と言ったり、中国の戦時中の様子を描いた映画を一緒に見ていて、「昔からこんなに女性が働いていたの?」と当然僕が答えを知っているかのように聞いてきたり。どれも悪気はないのはわかっているし、僕自身あまり敏感ではないため言われて数分〜数時間経ってから「あれさっきのって差別意識から生まれた発言…?」と気づくことが多いので問題にはしませんが、日本への先入観やアジア全体で一色担に思われているのを感じることは結構あります。

どれも意識して発言したわけではないということが逆に悲しく、アメリカ人を好きになれないなと思ってしまう一要因になりました。しかし、では我々日本人はどうなのだろうと考えてみると、欧米以外への視線はさらにひどいのではないかという気がしてきます。テレビを見ていると、中国や北朝鮮、インドなどを描く時は「ここではこのような日本では考えられないことが起きています」というような上から目線で、アフリカなどは「日本人がまず行かないようなこの未開の地では」というような描かれ方が多い気がします。性に関しても、すぐゲイだろとからかったり、デートで「女の子に払わせるわけにはいかないよ」と言っておごったり、アメリカでやったら間違いなく問題になります。

自分もアメリカ人たちがしてきたように、日本の価値観に縛られて他の国々の日本より劣っている一部だけを見て笑ったり驚いたりしていたのだと実感しました。そう考えると、microaggressionという概念が流行し皆意識するようになっている分アメリカの方がマシに思えてきます。Yaleも、学生や教授が皆意識し気をつけている分、差別意識を感じる機会は極端に少ないと思います。

microaggressionにはアメリカ国内からの批判もあります。「自分たちはもっとひどい、意識的で明らかな差別を受けている。そのようなちょっとした無意識の発言ごときでとやかく言うな。有名大学に行けるようなおぼっちゃまのエリートで今まで差別された経験がないから小さなことで傷つくのだろう。」と言う感じです。

Yaleに行き、microaggressionを軸にアメリカや日本を考えると、アメリカが嫌になったり日本が嫌になったりアメリカが良くなったり日本がやはり良いと思ったり、波のある4ヶ月だったように思います。